大阪高等裁判所 昭和40年(ネ)301号 判決 1966年11月29日
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金八〇万円およびこれに対する昭和三八年一〇月一三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、
控訴代理人において、
(一) 本件譲受債権金八〇万円は請負代金請求権のうち工事の完成引渡のとき支払わるべき最後の分割支払金九〇万円の内金である。
(二) 控訴人が訴外三井建設株式会社(以下三井建設と略称する)から本件債権譲渡を受けた際、右金八〇万円は被控訴人において本件請負工事の完成未完成にかかわらず、建物の保存登記と同時に支払うべきことを特約した。
(三) 仮に右特約がなかつたとしても、被控訴人は異議を留めずして債権譲渡を承諾したのであるから、三井建設が工事を完成しなかつたというような事由があつても、三井建設に対してはともかく、これを以て譲受人たる控訴人に対抗することができないと述べ、
被控訴代理人において、前記(二)の特約を否認し
たほか、原判決事実摘示(ただし、原判決二枚目表一〇行目に「同年同月三〇日」とあるのを「同年四月三〇日」と訂正する)と同一であるから、これを引用する。
理由
被控訴人と三井建設との間に、昭和三八年四月一五日被控訴人の注文により請負代金を金二九〇万円と定め、契約と同時に金一〇〇万円、同年四月三〇日金五〇万円、同年六月五日金四〇万円、完成引渡のときに金九〇万円を各支払うこととし、残金一〇万円はさきに支払つた仮契約金をもつて充当する約定のもとに、三井建設が神戸市生田区元町通三丁目九四番地上に鉄筋三階建延三四坪の店舗兼住宅の建築する工事を請負い、同年四月一四日に着工し、同年六月末日に完成すべき請負契約が成立したこと、三井建設が昭和三八年六月一九日右請負代金債権のうち完成引渡のときに支払わるべき最後の分割払金九〇万円の内金八〇万円を控訴人に譲渡し、被控訴人が異議を留めずしてこれを承諾したことおよび被控訴人が同年九月二一日右建物につき自己名義の所有権保存登記を了したことは当事者間に争いがなく、成立に争ない乙第一〇号証原審における被控訴人本人訊問の結果により成立を認める乙第七号証の一ないし七、同第八号証の一、二同第九号証、昭和三八年九月一日当時の本件建物の写真であることに争いのない乙第六号証の一、二、三原審における証人山根壮介、同高木義夫の各証言、被控訴人本人訊問の結果を総合すると、三井建設は被控訴人から工事代金のうち金二〇〇万円を受取りながら、同年七月三〇日以降工事を中止し、約六分どおりの工事をしたまま放置したので、やむなく被控訴人において同年九月二五日右請負契約を解除し、残工事を他の請負人をして完成せしめ、これがため更に建築費金一四八万一、二七二円、水道工事金一〇万六、三八〇円、電気工事金七万円を支払つたことが認められる。
思うに、請負人の受くべき報酬は仕事の完成という結果に対して支払われるものであるから、請負人において仕事を完成しなかつた以上、別段の事由のない限り、注文者に対し報酬の支払を請求し得ないのは請負契約の性質上当然であつて、前認定のごとき事実関係の下においては三井建設は最後の分割支払金九〇万円に対応する工事部分を完成しなかつたものとして、これが支払を求め得ないものといわなければならない。控訴人は工事の完成、未完成にかかわらず、被控訴人において前記請負の目的たる建物の保存登記を了したときはこれと同時に右金八〇万円を支払うべき特約があつたと主張し、原審における控訴人本人訊問の結果中には右主張にそうがごとき供述部分があるけれども、該供述は原審における証人高木義夫の証言被控訴人本人訊問の結果と対比してにわかにこれを信用し難く、他に控訴人の右主張を肯認するに足る証拠はない。
控訴人は仮に右特約がなかつたとしても、被控訴人は異議を留めずして債権譲渡を承諾したのであるから、その後三井建設が工事を完成しなかつたという如き事由をもつて控訴人に対抗し得ない旨抗争する。しかしながら、債権譲渡によつて債権はその同一性を失わないで譲渡人から譲受人に移転するのであつて、本件譲受債権が請負契約に基づく報酬請求権であり、しかも将来完成されるべき未完成部分の工事代金に属するものであることは前叙説示のとおりであつて、しかも成立に争ない甲第一号証、乙第一号証原審における控訴人本人訊問の結果、弁論の全趣旨を総合すると、控訴人は本件債権譲渡に際し、右の事実を十分知つていたものと認められるから、かかる性質の債権譲渡の場合にあつては、被控訴人は民法第四六八条第一項本文の規定にかかわらず、その後三井建設が残工事を完成しなかつたため本件請負契約が解除された結果、被控訴人の残代金九〇万円の支払義務がなくなつたことを理由として、右債権の譲受人たる控訴人に対してもこれが支払を拒み得るものというべきである。
右の次第で控訴人の本訴請求は理由がないから失当として棄却すべく、これと同趣旨に出た原判決は結局正当であつて、本件控訴は理由がない。
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。